神様ノ子守唄

 

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-Story-


-story-

 授業中の居眠りや遅刻早退、そんな連中を眺めながらのペン回し、学食での争奪戦、放課後の寄り道、友人達との馬鹿騒ぎ、ごく一般的な学園生活を満喫する主人公、三木原光吉には特異な能力が一つ有る。

 異常なまでに勘が鋭いと言う事。

 二者択一、取捨選択、人生における『選択』という機会において発現する特殊能力、未来予知にさえ等しい勘、結果を見抜く小さな奇跡。


 ――なんとなく、そんな気がする。
 それが彼の能力で、彼の全て。


 そんな『勘』を持つからこそ、極力厄介ごとは避けたいと願う光吉。
 そんな友人を持つからこそ、それを信じて無茶を重ねる幼馴染、木下洋子。


 これは彼らが織り成す、喜劇的な日常と、酷く滑稽な推理劇。





-stage-

 都内東部、都と県の狭間に位置する広さだけは最大の学園都市、物語はその中にある雪那町から動き出す。中心には形だけの規律を備えた自由奔放な私立校『私立藤森高校』を、その目の前には一級河川、町の周囲を幾つかの山に囲まれた自然豊かな学園都市。そんな、それなりに住みやすい生活環境を整えた街並みを彩るのは、少し変わった住人達。
 もしかしたらかなり変わっているかもしれない、変わっているのはこの町かもしれない。
 自然と市街、希望と絶望、不思議と現実、そして世界。狭間に位置する街、雪那町、何処かにあるかもしれないこの町が、この物語の舞台であり、全ての始まりの町である。





-ツギハギ殺人事件-

「ご、う……ぐ! うえぇっ」

 沸き上がる不快感と込み上げる今朝の焼肉定食、限界を超えたそれを杉林の養分に変えながら男――柏木正義は襟元を強く握り締めた。空高く輝く太陽と、それを遮る木々の海、森林浴には最適であろうその場所を包み込む酷く淀んだ死臭の嵐。小鳥の鳴き声、風の音、木漏れ日が紡ぐ新緑に不釣合い極まる赤の海……もしかしたら自然本来の姿かもしれない、人の世から余りにかけ離れた原色の空間。

「あーあ、吐きやがったよ」

 溜息交じりの失笑に嘔吐で返す。独特の酸っぱい匂い、特有の血臭、意識すると同時に再び嘔吐。額を覆う脂汗を拭いながらの深呼吸、辛うじて堪えられる程度の吐き気を残したまま視線を空へ。
 最初からコレは酷だろう。そんな思考を空へ投げ掛け、正義は苦しげに目を閉じた。

「しっかりしろや、習うより慣れろって言うだろう」
「す、すいません……」
「気持ちは分かるけどな、現場を……いや、生で死体見たのも初めてか」

 男は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべると正義の背中に手を置いた。役にたたねぇ、休んでろ。背を叩きながら舌打ち一つ。
 ……無理も無い。
 ソレは無残で、悲惨で、残酷で、そして何より現実だ。素人に毛が生えた程度の新人に直視しろと言うのが間違いだ。いや、本来なら直視する必要の無い、人類として生きる限り縁の無い、そんな、どうしようも無い光景だ。
 取り出した煙草に火を付けながら、男はソレから目をそらす。

 木々に守られるように横たわる『ソレ』
 青白い手足、血に塗れた胸元、赤に染まる首、そして……。

「人と思うな、仏さんにゃ悪いが肉の塊だと思っとけ」
「肉……うぷ」
「やれやれだ……首無しねぇ、顔が無いだけマシだと思うがな」

 頭部があるはずの空間は、血の池に姿を変えていた。

「ぐ……これって、やっぱり」
「おいおい、無理すんなよ」
「いえ、大丈夫です……例の事件、ですよね」
「……そうだな、ガイシャの特徴も一致する」

 ――南東部連続殺人事件
 都内東部を中心に頻発している、若い女性ばかりを狙った連続殺人。

 殺害された女性の数、今年度に入って既に五人。合計被害者数は十人以上。
 特徴として被害者は身体の一部を切除されており、切り取られた部位は発見されていない、

 第一事件欠損部――右手。
 第二事件欠損部――左足。
 各種臓器、乳房、性器、四肢全て他それらの複合エトセトラ。

 共通している事は全てが生きたまま切り取られている事。

 目撃情報――無し。
 物的証拠――無し。
 抵抗の痕跡――無し。
 犯人の手掛かり――無し。


「世紀末とやらは終わったが、あれだな……世も末だ」
「……酷い事件ですよね、正気の沙汰とは思えない」
「そうかね、お前はそう思うか」
「え?」
「これだけの事件だ、犯人候補の通報なら吐いて捨てる程ありやがる。アイツは夜中に出歩く、あの家の息子は特殊性癖の持ち主で引き篭もり、どれもこれも根拠が無い、使い物になんざなりゃしない通報で無駄足で……。
 ともあれ、警察より厳しい近所の目ってのがある現状だ。そんな目を浴びながらも誰からも怪しいと思われない生活を続け、一切の痕跡を残さずにこれだけの数を殺せる人間。狂ってるとはな、思えねえよ」
「……」
「犯人は極めて冷静だろうさ、細心の注意を払いながら慣れた手つきで人を切る、終わったら飯食って風呂入って夢の中、朝になれば仕事なりなんなり当たり前の、普通としか見えない人生を普通の連中に紛れて過ごして……いや、そうだな」

 男は吸殻を踏み潰しながら、吐き捨てるように呟いた。

「そういう人間は、やっぱり狂ってるのかもしれねえな」


 二月十九日、第一被害者の遺体発見、捜査本部設置。
 同二十四日、第二被害者の遺体発見。
 三月七日、第三被害者の遺体発見。
 四月十四日、上記現場の隣町にて遺体発見、被害者数は十人に。
 五月十二日、遺体発見、最初の事件から二隣の街、十二人目。
 五月十四日、十三人目の遺体発見。


 被害者数計十三名。
 後に『ツギハギ殺人』と呼ばれるこの事件は――未解決のまま、忘れられていく事となる。



 

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