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神様ノ子守唄
-Fragment-
甘くて甘くて……とても寂しい、白い刻。
望む物全ての詰まった、幸せ過ぎる甘い時。
それは、まるで夢みたいな……
神様ノ子守唄
〜夢魅人の夜〜
――『夢神様』
女子の間で広まった都市伝説。
日常の中、心に抱えた不安や恐れ、青春に抱く葛藤。
それらが抱えきれぬ程の大きさになった時、1人の少女が一杯の紅茶で癒やしてくれる明晰夢。
だが、抱えた物が大きすぎる場合……言葉で癒やす事ができない場合。
そのまま夢に囚われ、現実に戻る事はできないと……。
夢という事象故、誰にも確かめる事ができず。
噂という事象にも関わらず、『出会う術』が広まらない。
確かな物など何もなく、見たと自称する物が後を絶たない、所謂、有り触れた噂の1つ。
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「あたしは眠りが深いからね、ほら。体力の消耗が激しくてー」
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「非現実的だわ。夢がどうのの時点で確認が取れないし、信じるも何もないわよ」
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「よく分からないけど……楽しい夢が見れるのなら、大歓迎よ」
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何事にも代え難い、何でもない日常。
些細な不思議も、心霊現象も、
全てを受け入れ、理解さえした光吉にとって、その些細な噂も一笑に付する代物だった。
――噂に過ぎない、はずだった。
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「その夢、危ないな……あまり信用しない方がいい」
「え……それって、その……勘?」
「いや……勘が、通用しないんだよ」
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それを切欠に、ズレる日常。
「そういう節はあるよなー、全部分かってますって態度。 俺はいいけど、ダメなヤツだっているはずだぜ?」
「まあ、夢の中でくらい安らかな時間を、という気持ちは分かるんだが……
木下は、その手のストレスとは縁遠いように思えるぞ」
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「だって、なんであんなに事勿れなんだろ、昔はもっとさ……」
「……知ってるはず」
「え?」
「……貴女が一番……分かってるはず」
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「……覚悟、しておきなさい」
「ん?」
「長い夜が始まるわ……精々、魅せられない事ね」
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「光吉が本当に危ないって言うなら、控えるよ。確かなんだよね?」
「いや、だから勘が通じないんだよ」
「………」
「………別に、勘を信じてるわけじゃないのに」
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「お前だってモチロン、大事なダチだぜ? ただ、いざとなったら……より弱い方に付く、 お前だって俺よか洋子ちゃんを取るだろ?」
「あ、これは例えとしてアレか、間違い間違い…… 別に洋子ちゃんと比べて欲しいとか言ってるんじゃあ無いぜ、その気は無いぜ!」
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「神位第二位の祝福、夢魅せ――その能力者が覚醒する際の異常」
「世界の全てに夢を魅せ、夢の名の元、心を救う神の業」
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「ば、か……野郎……っ」
「……全部分かってる奴が……こんなヘマ、踏むかよ……!」
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交差する企み。
膨張する不安。
あると思った物が揺らぎ。
避けたいと思った悪夢が、具現する。
「洋子!」
「光吉は良いよ! 勘があるもんね……いつだって正しいし、 間違えないし……っ、全部分かってるもんね!」
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「なんだこれ……チケット?」
「そ、グアム三泊四日、過ぎ去った夏をもう一度! ってか」
「……パスポート付きとはご丁寧なことだな、どういうカラクリだ」
「合法な偽造ってトコ? 光吉だけ持ってないみたいだから、ちょっとしたコネでね」
「国外に追い出したいくらい、俺が邪魔か」
「察しが良くて助かるぜ」
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「すまんな、三木原……全力で、行かせてもらう……!!」
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「貴方なら大丈夫。私が知ってる貴方なら決して負けない、そう、信じてるの」
「集中しろ、集中しろ集中しろ集中しろ集中しろっ!!」
「心を研ぎ澄ませ、一手先を……! 何手先を読まれていようと覆す、一手先を……!!」
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「頼りにしてるのよ、光吉……勘じゃなくて、貴方をよ」
「有栖川あああああぁ!!」
「吼える余裕があって人並み、おかしいな…… お前ならもっと冷静に語ってくれると踏んでたぜ?」
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「貴女は悪くない」
「でも……誰も、貴女を救えない」
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――そして
「……ごめんね、光吉」
世界は、夢を魅る――。
「くそっ……どうしろっていうんだよ、こんなん!!」
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夢に包まれた雪那町。
勘を失い、右も左も分からぬ光吉。
頼れる力は無く、抗う術も無く。
ただ、これまで培った縁だけが、道を助け、阻み、運命を彩る。
「動くなっ!」
「……やっぱり、光吉も来たんだな……」
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「誠意と善意を持つ人間が、必ずしも最良の行動を取るとは限らない」
「お前という不確定な動きが、そしてあの少女が…… 関与を拒絶したい程に、不確定な要素だったんだ」
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「三木原君……? そうですか、貴方も夢に引き込まれたのですね……」
「…………」
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「なっ、光吉!? ……そうよね、それだけ力があればおかしくない、か……」
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――いい光吉、永久武装を持つ貴方に、奇蹟は決して起こらない
――銀十字というのは性よ。その名は忌み名故、語り継がれる事は無かったの
――永久武装は特に、名の性質を宿しているわ。貴方がそれを持つ限り……
――全ての奇蹟は零に帰す
見えない糸、意図。
消え去った勘は、バラバラな思いを束ねはしない。
止まらぬ混乱、絡み合う運命。
ツギハギだらけの世界。
その最中、キミに捧げる――
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「――あくまでも、唯の夢です」
「傷を受ければ相応に痛みます、ですが、その痛みが現実に残ることは御座いません」
「致命傷を受けても目覚めるだけです、命を落とす事はありませんよ」
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――それは、これまでの何より安全で
「くそ……落ち着け、落ち着けよ……!
夢とはいえ、いつもと変わらない道じゃねえか
普段通りに歩けばいいだろ……勘が無いだけだろ……それだけじゃねえか!」
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今までとは比べられぬ程に困難な――
「一つ、断言するわ
貴方が救い出さないと……あの子はずっと、夢に囚われたままよ?」
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――決して負けられぬ、長い夜。
運命は、皆に平等で。
光吉だけではなく、皆の運命が交差する。
「光吉、君……?
良かった、人が全然居なくて……もうどうしようかと思ってたんだ……」
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「って……有栖川の次男坊じゃない!? 何してんのアンタ!」
「へ? ……まどか姉ぇ!?」
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「今更、聞かないさ……俺もまあ、似たような物だ……」
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「今の貴方では足手纏いですよ、 庇いながら戦えるほど……余裕のある相手でも御座いません
行きなさい、早く!」
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「片岡が! ……瑞奈が、来てる」
「なんですって……!?」
「くそっ……アイツらだけで、手一杯だってのに……!」
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「……仕方がない、か
俺一人でなんとかする、お前は……あの子の所に行ってやれ」
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「悪い、光吉……ちょっと一緒に行けそうに無いわ。
アンタの事も気になるけど、その…… どうしてもツラ、拝まないといけない奴が、ね……」
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嘘、真実。
邂逅、再会。
神、魔王。
「…………」
「まひる……」
「…………」
「……悪い、今は……今はお前が何を言いたいのか、分からないんだ……!」
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「くそっ、なんでこんな……奈乃子、伏せてろ!」
「え、あっ……!?」
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ずっと見守ってきた理由。
ずっと、黙っていた理由。
運命を壊した、その理由。
「そいつが何者かって、ホントに分かって言ってるの!?」
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「光吉。セレスって言ったっけ…… あの子には気をつけな、いいか、あの子は……」
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――全ての始まり。
「なんでこんな大事な時に限って、勘が……っ! チクショウ……っ!!」
勘が消えた理由。
勘が有った理由。
勘を持てた理由。
「成程……三木原、お前の能力に足りない物、合点がいったぞ」
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「揺らぐなとは言えない、人は誰しも揺らぐ者。 貴方が、例外だったに過ぎなません、でも……」
「決める術が無いからと、決断を放棄するならば…… そんな者、唯人ですらない!」
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「アナタをアナタたらしめているのは何!?
勘があるからアナタなの!?
永久武装があるからアナタなの!?
アナタの心は、何処にあるの!?」
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「…………信じて、いいんだな」
「今回ばかりは俺が聞きたい。
相手の顔とか、声とか、そういうので嘘見抜いたりは出来ないんだ。
……お前と違ってな」
「ははっ……そうか、そうだよな……今のお前なら信じられる。
普段よりよっぽど好印象だぜ、光吉?」
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「約束しましょう。貴方が死に絶えたなら、私が持ち霊にして差し上げます」
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「立ちなさい!
望むなら掴みなさい!
願うなら歩みなさい!
アナタは、アナタ達はそれを許された唯一の存在っ、人間なんだから!!」
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その極地。
命ではなく、絆を。
自身ではなく、他人を。
心より思うことが――。
「世界なんざ関係ねぇっ! お前ら全員的外れだっ!!」
「仮にこれが、世界の意思だって言うのなら…… こんな世界、滅んだって構わねえよっ!!」
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第一神の祝福、永久武装。
辿り着く答えは救世主か、それとも破壊の使者か――。
「ビンゴっ!」
闇に包まれた夢の中、真白に染める雪が降る。
「覚悟はいい、光吉!」
「ああ……やってくれ、セレスっ!!」
黒の夢から、白の雪。
雪の最中の、白の夢。
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「…………」
「……夢の中ならば、いつまでも……」
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幾つもの夢を渡り歩き、最後に辿り着くは――。
「波の、音……? 海辺……?」
運命が始まり、終わった地。
いつまでも続く……夢幻なる、孤島。
運命は、決まっている。
運命が交わり、物語が帰結を選ぶ、その刹那。旋律は静か、世界に響く。
永遠が幕を開け、夜が砕ける。
全てが潰える、その時に……。
――"さあ"
「お前じゃ……お前じゃっ」
――"物語を"
「勝てねえんだよおおおぉおおぉぉおっ!!」
眠るは神か、それとも……。
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神様ノ子守唄
〜夢魅人の夜〜
「はじめましょう」「はじめよう」
――キミの、運命を壊す物語。
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