神様ノ子守唄

 

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-Game Top-

 



-断片-


-story-


-Akashic Records[code:red]-






-stage-

 一見は極普通の学園都市。何処にでもある高校、何処にでもある日常。
 だがその日常は紙一重を隔て、すぐ隣りに幻想を抱いていた。
 
 剣と魔法に満ちた幻想世界、幻世。
 その破片、神々の祝福と呼ばれる特殊能力。
 裏側を隠すための秘匿組織。
 混ざり合う幻想を調律し、世界のバランスを保つ調律師。
 
 一歩裏側に入るだけで、現実とは全てがかけ離れる。
 現実と幻想が交差するこの世界が、この物語の舞台であり、主人公である三木原光吉が生きる世界である。







-白い夢-


-White dreme-


 目を覚ますと、ただただ、真っ白な世界が広がった。

 例えるなら、絵の具をぶちまけたような。
 詩的に言うなら、処女雪のそれのように。

 でも、どの言葉も似合わないと感じるような、そんな白。


 一面の黒は、目を閉じれば見れる。
 でも、全てが白に染まった景色なんて、まず見ることができない。



 始めて見る景色だ。
 そんな感想を目の前の白に抱きながら、私――木下洋子はぼんやりと辺りを見渡した。


 目覚めた実感は何処にも無い。
 まだ寝ぼけているような感覚があるけど、それでも、頭の中はすっきりしてる。


 なんか、矛盾してる。
 よくわかんない。


「あ……」


 目を凝らして見れば、白一色と思った世界にも微妙な境目があるようだ。

 遠くには地平線っぽいものが見えるし。
 そして、すぐ目の前には……。



「テーブルと、椅子……かな?」



 思わず、声に出しながら近づいた。
 包み込む白一色の世界が、全てを飲み込むような気がして、声に出さないと自分さえも消えてしまう気がして。


 私はゆっくりと椅子を引いてみる。
 気をつけたつもりだけど、結構大きな音がした。


 ……周りがあまりに静かだから仕方がない。
 そんな風に思いながら、ふと、気づく。


 よく考えたら現状は結構……いや、かなりおかしいのではないだろうか。
 というか、自分の部屋で寝ていたはずの私がこんな場所にいるわけ無いし……。v
 もしかしたら、まだ夢の中に居るのかもしれない。
 それにしては酷くはっきりとした夢だけど……。


「……座らないの?」
「うわあっ!?」

 かけられた声に思わず飛びのく。


「…………」


 いつから居たのだろう。
 目線を向ければ、そこには女の子が立っていた。


 背景に溶け込みそうな白いドレス。
 そして、明らかに異質なのに何故か調和が取れてると思えるほどの、赤い、綺麗で長い髪。

 その隙間から覗く目も、赤い。
 だけど、これもまたぞっとするほどに白い肌の中にありながら、違和感らしいものは感じない。


 ――何処かで会ったような気がした。
 けど、それらしい記憶は見つからない。v
「……座らないの?」
「えっと、座っていいの?」
「…………」

 こくん、と。
 小さく頷くのを確認してから、私は椅子に腰を下ろす。



 よくわからない。
 変な夢だな、と、そんな風に思った。


「あれ?」

 その思いを掻き消すように、心地よい香りが鼻に届く。
 それが紅茶の匂いだと気づけば、目の前に現れる陶器の器。


 それは、突然現れたとは思えないほど自然に、湯気と共に心地よい香りを立ち上らせる。



……便利な夢かもしれない。


「……貴女も、きっと夢を見る」
「へ?」

 あ、紅茶美味しい。
 ていうか、飲みながら聞いても、いいんだよね?
 ……椅子に座っていいのなら、紅茶も飲んでOKだろう。

 そんな勝手な理屈で口をつけた紅茶越しに女の子をみながら、とりあえず、聞き流そうと結論付ける。


「てか、今のコレも夢だよね」
「……」
「いやあ、現実なら色々びっくりというか、冷静になればなるほど無理があるかなーとか……あれ?」
「…………」

 ……返事が無い。
 なんだろう、この気まずい雰囲気は。


 何か言ってもらわないと会話にならないし、言いかけたのなら最後まで言ってほしいというか、その……。


「えーと」


 ……無口な子、なのかな?


「……時間は、戻らないから」
「え?」
「……時を戻すことができても、そこには、その時の貴女がいるから」

「……人に、過去を変えることはできないから」
「えっと……ごめん、いきなり過ぎてよくわかんないかな」


 目をそらすように俯きながら、そう答えた。
 言ってることは理解できる、けど、そんな当然のことを言われたって……困る。


 そもそも、時を戻すことができてもって、そんな事できるわけないし。


 目の前には、ゆらゆらと紅茶が揺れている。

 白い陶器と、紅い水。
 その対比が、そのまま彼女と重なって、抱いていた不安が大きくなる。


 そうだ……怖いんだ、私。

 冷静になって、現状を把握して。
 その上で、理解できるレベルの理を話す彼女を、怖いって思い始めてる。


「……怖がらないで」
「っ……」


 そんな私を見透かしたような言葉に、目に見えて緊張した自分を自覚した。


「…………」
「え、あ……そ、その、私……っ」


 無言が怖い。
 彼女の一挙手一投足が私を責めているように思えて、ただただ、それが怖くて……。


「……確認しただけ、だから」
「……え?」
「わかってるなら、それでいいから……」
「……怖がらないで」
「…………」


 そう、呟く女の子はあくまでも無表情。
 でも……敵意だけは、無いような気がする。


「……望んでも、決して叶わない」
「……貴女は、失ってしまったから……」

「う、失った? ……何を?」

「夢を、見る権利がある」

「えっと、夢って言われても……」


 私の話を聞いているのか居ないのか、女の子は一方的に言葉を続けた。


 ――夢、夢、夢。
 少女は夢の話を繰り返し、その合間に、現実の厳しさを言葉に載せる。


「……思うがままに、願ったままに、幸せな夢を」
「……幸せだった時を、見る権利がある」


 ――夢は幸せだ、現実は厳しい。
 乱暴に咀嚼すれば、少女の主張はその一点に尽きて。


 何を言ってるのか分からない。
 ううん、良く分かるけど、だからこそ……理解が難しい。


 ――当然じゃないか。
 恐ろしい夢も稀にはあるけど、それ以上に幸せな夢の方が多くて、どう足掻いても現実の方が厳しくて。


 ――余りにも当たり前の指摘を繰り返す少女は、やはり、理解の範疇を越えていて。



「……よく、分からないけど……楽しい夢が見れるのなら、大歓迎よ」


 ……ようするに、夢でくらい幸せな夢を見ようよって、そういう話……なのかな?


 世界が、震えたような気がした。
 けど……うん、よくわかんない。
 よくわかんないから、なんとなく……なんとなく、私は思うんだ。

 この子は、悪い子じゃないんだろう。
 少女は無表情のまま私を見て、静かに、その口を開いた。


「……朝が、来る」


 ――夢の終わりを少女が告げる。
 この子のことは全然理解できない。

 けど、奇妙な親近感と、微かな既視感だけを覚えながら、じっと、無表情な少女を眺め見た。


「――さあ」


 ――夢が溶ける。
 白が白にまみれて、視界が鈍くぼやけるのを意識しながら。
 最後に、女の子と、その言葉を聞いて……。


「物語を、始めよう」


 ――何処かで聞いた声だと、そう、思った。










-零-


-0-



 遠い遠い、昔の話。

 幻世に伝わる神話の話。
 北方の雪国に、古より伝わる小さな集落。
 神を降ろす人形、神形を紡ぐ一族に、1人の異端が現れる。

 既存の全てを打ち砕いた者。
 余りにも強すぎた者。

 異端は力故に封を施され、村を追われ。
 その才さえ封じられ、1人の少年として長い、長い旅に出る。

 異端と化した切欠、1人の人形。
 生きる意思と成った切欠、死にかけていた1人の少女。

 少年は青年となり、再会を夢見て剣を振るう。
 異神大戦と呼ばれる戦、その、最後の戦いの地にて、青年は人形と、少女との再会を果たす。

 刹那、放たれる一撃。
 少年は彼らを庇うよう、身を躍らせて……。


 異神大戦、最終局面。
 史上稀に見る激戦でありながら、戦死者は唯の一名。


 ――後の世にいつまでも伝わる『銀十字』








-奇蹟-


-Alive-


 その生涯を、余りにも不幸だと思った神がいた。
 神は己の力を以て、彼に束の間の奇蹟を託す。

 奇蹟の技。
 禁忌とされる、反魂の法。

 蘇った銀十字は、何処ともしれぬ孤島にて束の間の日々を戯れる。

 銀十字と、神々と、そして少女。
 期限付きの命、決して長くは続かぬ遊戯。
 その果て、約束の時、滅びの時。

 銀十字は、生まれて初めて生きたいという意思を持った。
 周りの人間がそうするよう、普通に生きてみたいと初めて願った。

 彼の元、死を纏って現れるは第一神。
 絶対とされる龍神、数多くいる神々の第一位。

 それでも、銀十字は滅びを拒む。

 胸に秘めるは確かな覚悟。
 振るう剣に、生きる意思と想いを込めて。
 激しい戦いの末、銀十字はそれを打ち破り、生きる資格を掴み取る。








-軌跡-


-Life-


 その代価は、世界からの追放。
 再び【異端】と化した銀十字、神を以てしても滅せぬ存在。
 それをそのまま、世界の外へと追い遣ることで、神は『世界』を調律した。

 銀十字は少女と別れを告げて、長い、長い旅に出る。
 果たせぬとも知れぬ再会を誓い、永い、永い旅に出る。

 幾つもの世界を渡り。
 数えきれぬ程剣を振る。

 水面に踊る炎を見た。
 雪原に舞う雷を見た。
 真冬に咲く華を見た。
 砂漠に降る雪を見た。

 長い、長い旅の末、銀十字は産まれた世界へ舞い戻る。

 数年。
 刹那とも永遠とも言える時。

 その最中、ずっと彼を待ち続けた少女。
 その最中、ずっと『父親』を夢見ていたその娘。

 久しぶり、とはじめまして。

 北方の島、自身を知る者さえ少ない大陸の外。
 人の幸せを手に入れた銀十字は、いつまでも、いつまでも……

 幸せに、暮らしましたとさ。


――鵜方恵介『死に絶えし英雄、その末路、奇蹟の軌跡』
【第三章 彼の地への帰還】より








-夢幻-


-Dream-


 駆け出す青年の後ろ姿を見送り、神は静かに姿を消した。

 自分の役目は終わった。
 もう、彼に寄りそう必要はない。

 感謝してる。心の底から感謝している。
 その事を告げる必要はない。

 楽しかった。彼と過ごした年月が、心の底から楽しかった。
 その事を告げる必要はない。

 愛しかった。ただ、誰よりも愛おしかった。
 その事を告げる、必要はない。


 私はあなたがだいすきでした。
 私はあなたがだいすきでした。
 私はあなたがだいすきでした。



 私は あなたが だいすきでした。









-投影機-


-memoria-


 銀十字は自らの記憶を、思い出としてカタチへ変えた。
 打ち出す事で、全てを追憶できる投影機。

 いつか聞いた武器の形と成ったのは、己に残った業故だろう。
 産み出したそれを失ったのは、己が運命のせいだろう。

 それを求める者がいた。
 銀十字の思い出に夢を馳せ、自分もと願う少女がいた。

 それを求める者がいた。
 銀十字が籠めし記憶、それに、力を望む者がいた。


 2人、互いの顔も知らぬまま、同じ物を求め彷徨い歩く。


 その内に、少女は、もっと大きな宝物に気付いて。
 いつしか、それを追うことを諦めて。

 奇蹟の術は、人の子の手の内へ。
 神殺しの業を持つ、小さな小さな集落へ。


 全ての記憶を宿しながら、永遠はその日、世界を越えた。








-交差-


-Cross-


 銀十字は世界を越える。
 その強力無比なる力の業か、持ち手無きそれは、安住を求めて時を彷徨う。

 それを、彼らは知らなかった。
 神殺しの一族は知らなかった。

 術を手に、神に仇成そうと世界を越える。
 共通の武器と定め、誰の者とも決めなかった。
 持ち手なき永久武装は、彼らの手を離れ……何も無き地へと落ちる。


 そのはずだった。
 それが運命のはずだった。


 誰も居ないはずのその地には……まるで、何かが来ると知っていたかのように。




 ――三人の人の子が、立っていた。















-神様ノ子守唄-















-once upon a time-


-EX:『龍殺しの王子』-



 ――once upon a time

 神話の時代、後の世に伝わる一つの王国。
 水と緑に囲まれた、花さえ称える白き城。

 納めるは、聡明で猛き蒼の王。
 彩るは、紅の髪を持つ王女が三人。
 国は史上類を見ぬ程の平和に包まれ、彼らは幸せに、それはそれは幸せに暮らしてた。

 ある時末の王女が倒れ、冷めぬ病に浮かされた。
 原因不明の病は王女の身体を蝕み、王族は無論、全ての民が不安と絶望に包まれた。

 惨状を聞き及び、訪ねるは隣国の王子。
 王子は一目で彼女に見惚れ、救いを誓い旅に出た。

 山奥に潜む邪龍が一つ。
 全ては彼の者の仕業だと、口を揃える国の民。
 皆の言葉に導かれ、野を越え川越え山の果て。

 待ち受けるは、強大なる邪龍。

 八岐の首と地獄の吐息。
 嗚呼、人を越えし存在に、されども彼はひるまずに。

 振るう剣が眉間一突き。
 それは奇蹟か運命か、邪龍はその場に崩れ落ち――。



 後に待つのは、極めて有り触れた、めでたしめでたし。











-EX:『詩人達の歌声、伝承の真実』-


 ――国へ戻った王子は、燃えさかる王城に迎えられた。
 美しかった町並みは瓦礫に埋もれ、鳥の囀りに代わり、叫喚の声が耳に届く。
 炎に彩られた大通りを駆け抜け、傾いた王城へと向かう王子。

 燃え盛る炎より尚朱く、広がる地獄は謁見の間。

 蒼の国王は血に伏し倒れ。
 二人の王女は髪よりも紅き池の中、永久の眠りへと着いていた。


 一面の赤に囲まれて、末の王女が妖しく笑う。


「私を殺してください
私の身体は血に濡れて、もう踊ることもできません」


 王子は剣を取り落とし、王女の瞳をじっと見据えて……。


「それはできません
何故なら、今でも私は貴方に惹かれているのだから」


 王女の顔が涙に歪む。
 王子の言葉に顔を押さえ、嗚咽を漏らし、数瞬。


「……救ってくれるって、言ったのに」


王女は、満面の笑みを取り戻すと……。


「――ウソツキ」


 振り下ろされた斧が、もう一つ、鮮血の噴水を巻き上げた。
 運命の欠片を打ち砕き、長い、長い物語が始まった。








『目に見える敵が、本当に敵だとは限らない。
一つの失策が、運命をねじ曲げるなど驚くにさえ値しない。

それでも、この王子を攻めることが誰にできようか。

いつでも――落とし穴があるとすれば、気づけるほど近くに。
ただ、近すぎて誰もが、気づかない。』



――鵜方恵介『詩人達の歌声、伝承の真実』
【第二章 神々の生誕】より









王子は、第一の神となり。
王女は、第二と、十六番目の神となる。

そして、末の王女は――



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